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東京家庭裁判所 昭和49年(家)9592号 審判 1975年1月27日

申立人 三宅広子(仮名)

相手方 田島宏一(仮名)

事件本人 田島信一(仮名)

昭四四・四・一一生

田島弘二(仮名)

昭四六・七・五生

主文

相手方は申立人が事件本人両名

(事件本人ら肩書地所在の養護施設において)面接することを妨害してはならない。

理由

一  (申立)申立人は事件本人両名に対する監護処分として、申立人が事件本人両名を引取り養育しうべき旨の審判ないし、申立人が右両名と面接することを相手方において承諾すべき旨の審判を求める旨申立てた。

二  (事実)

(一)  申立人と相手方とは昭和四四年四月三〇日婚姻し、両名の間に同四四年四月一一日長男である事件本人信一が、同四六年七月五日二男である事件本人弘二が出生した。そして戸籍上申立人と相手方とが同四八年六月二日協議離婚届出をした旨記載されている。しかし申立人は右協議離婚届出がなされた当時同人においてその届出意思を撤回していたことを理由として相手方を被告とし、東京地方裁判所に対して離婚無効確認の訴を提起し(同庁昭和四八年(タ)第四二三号事件)、同裁判所は同四九年七月二三日原告である申立人勝訴の判決を言渡したところ、相手方はこの判決を不服として控訴を申立て、同控訴事件は東京高等裁判所に係属中である(同庁昭和四九年(ネ)第一七九四号事件)。以上の事実は記録によりこれを認めることができる。

(二)  (1) ところで記録特に家裁調査官の調査書によれば次の事実が認められる。「(イ)申立人と相手方とは夫婦仲がよくなく、夫に言わせれば妻は浪費しヒステリーである、夫の恥をかかせる、といい、妻に言わせれば夫は妻をなぐる、子供のミルク代もくれないというものであつて、事実としても夫は妻に家計費を一日分ずつ毎日渡したのが真実であつたものの如く、夫婦仲の悪くなつた原因が何れの側にあるのかたやすくは判明し難いけれども、何回となく両者間の離婚話も出ていたが特に昭和四八年春頃から、いわゆる夫婦喧嘩の末、離婚話しとなり同年五月初め頃両者は協議離婚届書に署名押印した。この書面作成に当つて申立人の言うところによれば、夫である相手方は妻である申立人に対し庖丁を突きつけ乱暴に及んでその署名を求めたため止むなく、これをしたというのに対し、相手方の言うところによれば、妻は冷静に離婚を承諾してこれに署名押印し、子の引取りも断念したというものである。しかし申立人は、右届書の書面を右のような事情のもとに作成したのにすぎなかつたから、直ちに、夫の本籍地の役場に対し、右協議離婚書は申立人に届出意思なきものとしてその不受理願を提出したが、夫たる相手方は右届書を申立人の本籍地の役場にこれを提出し、その受理するところとなつたものであつた。そこで申立人は前記協議離婚届出無効を訴求した。右届出書作成後相手方は事件本人二人の子をその手許に置いたものの、かくては仕事(大工)に従事することもできず、二、三日にして申立人に対し長男たる事件本人信一だけでも育ててくれと求めたが、申立人に拒否された。この事実について申立人は、相手方が信一を寝巻のまま連れて来て投出したので拒否したのにすぎない旨陳述するが、とにかく、相手方は二人の子を手許で育てきれず、同年五月二五日頃二男弘二を○○○乳児院に入院させ、ついで六月一日頃長男信一を○○幼児園なる養護施設に入園させた。二男弘二は同四九年三月末長男と同じ○○幼児園に転入した。(ロ)申立人(現在保育園の保母をしている)は母親として子である右両名に面接したく、右施設にこれを求めたところ、相手方は申立人が子と面接することを許諾しない旨右両施設に申入れていた。○○○乳児院は弘二と申立人の面接を認めたものの、○○幼児園は子と申立人の面接を相手方の承諾のないことを理由に拒否しているので、二男弘二が同園に転入後は、申立人と信一のみならず、弘二との面接もできない状況である。そこで申立人は電話により頻繁に二人の子の状況、健否などを聞き合わせて今日に及んでいる。」

(2) 前記第一審判決によれば、原告たる申立人が勝訴したが、右協議離婚無効確認判決は上訴により未確定であるから、申立人が事件本人両名に対して(共同)親権者であるかどうかたやすく確言しかねるが、申立人が事件本人両名に対し親権を有するかどうかに拘わりなく、右両名の母であることは事実であり、保育園の保母をして居るもので、申立人と子と面接することが子の健康上、道徳上又はその他の理由から禁止せらるべき特段の事情は全く認められないところであるばかりでなく、相手方は子を自ら養育することが事実上不能であつて、母である申立人が幼児である事件本人ら両名と面会することは子のために悪い影響を及ぼすものとは認め難く、前記認定の事実関係のもとにおいて相手方が前記養護施設に対してした申入れなるものは首肯しうるに足りるものとは到底認められない。従つて相手方は申立人が右養護施設において事件本人両名と面接することを妨害することは許されず、申立人が右養護施設において事件本人と面接を求めるときは、養護施設においてもこれを拒否しうべき事由はないものと認められる(但し、本件夫婦及び子の関係のみが家事審判事件たりうるもので、第三者たる養護施設は家事審判事件の当事者たりえないから、これに対する関係で審判をするものではなく、また、相手方が子に対し親権に基づく監護をしていることは否定できないが、事実上の監護は委託関係に基づき右養護施設がこれを行つているから、申立人が本件において子の引渡も求めているものの如くであるが、第三者たる養護施設に対しその引渡も家事審判において求めうべき限りではなく、かかる申立は須く当該第三者に対する訴によりなすべきものであり、また相手方との関係でその引渡について審判をしても、実効性において充分とは認められないから、本件においては子の引渡に関しては判断をしない)。

よつて事件本人に対する監護処分として、主文の限度で認容するのを相当と認める。

(家事審判官 長利正己)

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